幻影となった記憶、その後の日本経済



 アベノミクスのマイナス金利時代に金利政策では利下げ政策が取られていたが、社会ではいつのまにか利上げが容認され、それを金利上昇を引き起こすアベノミクス時代からの賃上げの社会心理が後押ししている。しかし、利上げのメリットがあるのは債権国のうち、物理的力の覇権に基づくアメリカ型経済の国家だけであり、利上げには、しっかりした物理的根拠が必要になる。

 社会での金利政策に対する10年以上に渡る無知はいよいよ頂点に達する可能性があるが、政権支持に繋がる賃上げに対する期待は根強く、物価抑制の局面においても、賃上げ声援は続いているが、金利上昇政策との対立は未だ顕在化していない。しかし、現実には、賃上げは金利上昇につながり、物価を下落させ、賃金を上げる根拠にはならないし、物価が下落すれば景気が悪化するだけでなく、ハイパーインフレを引き起こすような衝撃的リスクによってでなければ賃金は上昇しなくなってしまうのである。過剰な賃上げ要求は、実際には金利上昇(物価下落)を引き起こすが、もしディープインパクトを必要とするならば、災害派遣が必要になるような危機管理問題である。政治や金利政策は、賃上げ期待を止めることができず暴走気味であり、賃上げ声援を送り続けるべきか自分で判断できない被用者は、迷ってそのまま孤立を深めて独行することになってしまうことになるのではないか?対して、ヘッジを利用できる独立した投資家には、金融政策は無意味で中立的である。

 判断とは一方的な単純反射だけではなく、確固とした形勢判断に基づき自信を持って決然と進路変更を行わなければならないが、その中でも最良の判断は、長期投資のように、現在行っていることを続けることができる道を選べることである。

 低金利は企業の業績の改善を生じるが、利上げによる円高では株価は低下し、平成時代のような長期間の株価低下が発生することになる。金利を操作するだけでは景気やインフレ期待を維持できないならマネーサプライの変化に再び注意しなければならなくなるだろう。利上げは大国の政治動向に対して一方的な立場しか持たない軟性な追い詰められ進路変更を迫られ孤立してしまう経済に対して、硬性な独立した強靭な経済の方向を打ち出す思想であり、経済社会の補完的な選択肢も拡大し、日本の場合は対外純資産の大きさに結実した実績がある。

 被用者は賃上げを通じて間接的に利上げを望むことになるが、それが自分達の利益にならないことをまだ認めていない。他方で、バローの中立性定理や投資におけるヘッジ効果に基づけば、銀行や投資家は、もし将来利上げが批判されはじめたとしても、金融政策の影響を受けることはないのである。

 現在の金融政策の範囲内で社会心理の操作を通じてインフレ期待を発生させインフレ目標を実現することには当初から限界があったのである。今後は政治的立場の違いにより金利についても、必ずしも政権と被用者の利害は一致せず対立も起きることになる。しかし、既に述べたように、科学的見解としては、金融政策は、もし反対の政策を取ったとしても、投資家や銀行には中立的で、投資家や銀行には政治対立も無意味なのであり、投資家や銀行の独立した判断は、政治的な左右の立場の違いを超えた高い独立性と普遍性による安定性の根拠なのである。(2023.9.13.筆者記。)

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