様変わりする国際経済において、日本に肝心の決断力はあるか?



 米中貿易摩擦は、現代経済の最も関心の高いテーマである。理由は、国際経済に大国同士の政治的な主導権争いが関係しながら複雑な変化が発生しているポイントであり、米中の選択次第で将来の世界の動向を大きく様変わりしてしまうためである。


 アメリカでは、トランプ政権時代から数度に渡る中国への関税強化により、対中貿易は大幅に規制され続け、民主党政権下にでは対中関税引下げが検討されたが、情勢が変化し最恵国待遇撤廃も議論されるようになった。ロシアへの制裁と連動して米中の貿易摩擦は拡大し、党派を超えた課題になった。


 中国の国家理念は社会主義であり、本来は一国経済を大原則としているため、中国自体は国民経済の過大な拡大には自粛が求められることになる。そのため、例えば、中国に大規模な工場を持つiPhoneが禁止されると、アップルの株価は29兆円程度も下落した。


 世界の工場である中国のiPhone生産の拠点は、アメリカだけでなく、韓国やASEAN諸国の企業の動向に作用し、アップルの経営判断が、今後の世界産業の歴史的変化を決めてしまう程である。中国は世界の工場と呼ばれ、アメリカや日本等の先進国の産業も大きく依存してきていたが、経済よりも政治が優先され、経済人には中国の強い圧力はリスクとみなされるようになった。


 中国経済は、実は日本型の輸出中心の経済が、労働集約型の安価な賃金の労働力を求めて世界各国から移植されたことによるものだが、大きく発達した中国経済は、アメリカ型の消費中心の社会へ変容する可能性が出ててきていたが、一国二制度の運用により、中国経済には、アメリカ型経済への移行のためには、限界が出てきているのであり、中国経済は、質的にはピークを超えてしまっていたのである。


 どのように経済成長するかは、国民経済の特質に起因して異なっており、例えば中国経済なら、今後は輸出も制限され、消費型国家化が進まないならば、中国経済の成長は鈍化し、中国経済での日本人ブームが示す通り、益々日本型経済化が進むことになり、貿易摩擦も解消に向かうことになるだろう。

 同様に、原発処理水排出により発生した日中の貿易摩擦は、水産業者を直撃したが、それをどのように解決するかは決まらず、独自に解決するための政治力の根拠が日本にはないこと、また、独自の動きをするためには集団的利害なくして物事を決めるのが遅い日本の政治対応力は相対的に低く、国際経済の動向に反して、中国への依存から脱却できていない点が問題だったのである。経済的安全保障について、日本には中国の圧力を独自に抑止するだけの実行力があるかは疑問であり、日本経済の体質からすれば、50兆の予算を増やして中国と強く対立するよりは、産業構造の変化を促進するこれまでのやり方の方が国民の負担は軽かろう。

 処理水排出に関連した中国からの輸出制限について、今後は、アメリカにおける共和党の躍進や日本のインフレを容認する社会心理の動きに合わせて、関係改善の努力と中国依存からの脱却を狙い、依然として中国の圧力を軽視し安全性をアピールして日本の食材の輸出に拘る考えから部分的に転換し、輸出が制限された水産業者を保護し内需を拡大する政策を取り、主権者の地位を守るために政治経済の国際的変化に迅速に実現力を持って対応できる体制を作り上げるべきである。

 経済史で扱われる産業の変化と国際情勢は、政治判断でも重要な要素をなしており、しっかりとした情勢認識に基づくことが、大衆の衝動的な反応を当てにした政治パフォーマンスによる社会心理(消費者心理)の悪化拡大を阻止し、国際社会の危機を未然に回避することに成功するのである。(2023.9.11.筆者記。)

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