アジア金融三国志

 



 投資家心理は、消費者の家計に関する統計に反応し、一喜一憂し易い。ニューヨーク連銀(2023.9.11)によると、米国の投資家心理は、利上げ打ち止めにより改善したとされるが、投資家心理は、相場の動きには反比例し、家計の事情を最優先している(ニューヨーク連銀の調査結果の発表日に、米国株は下落していた。)。

 マイナス金利時には、銀行の業績低下が予想されていたが、それとは反対に、消費者心理に配慮したインフレ抑制を狙った利上げ容認により、消費者心理に応じて銀行株の上昇が予想されている。利上げは銀行の業績を伸張させる一方で、他方では、物価上昇に応じて賃金が上昇せず実質賃金が低下した場合には迅速に利上げに応じ、消費者心理と銀行は利害が一致し、物価を抑制し消費者心理を改善させるのだから、消費者心理は投資家心理というより銀行心理である。

 利上げによる銀行の業績改善は、消費者心理には良い影響があるため、内需拡大へ経済社会の舵を取るなら、大多数の消費者には安心に繋がる。賃上げの社会心理には利上げという限界が発生していたが、今後は実質賃金が上昇することになっていく。経済社会の社会心理は、銀行に投資のリスクを負担させ破綻させるという蛮行に消費者を操作し、消費者に銀行に対する批判的な考えを示させることがあったため、アメリカでは1933年にグラススティーガル法が制定された。銀行の利上げ、内需拡大は正に大衆という大多数の消費者を救う経済済民だったのである(グラススティーガル法は1999年に廃止され、その後にグラム・リーチ・ブライリー法が制定された。グラムリーチブライリー法の制定により銀行の証券分野での活動は自由化されたが投資のリスク問題が再発し、2002年にはサーペンスオクスリー法が制定された。二十世紀前半の当時リスク問題は二十一世初頭には会計不正問題に変化した。)。今後、消費者心理が銀行妨害に誘導されることはなくなっていくだろうが、内需拡大に合わせて消費者心理が銀行批判に向かわないように啓発を続けることも重要である。

 処理水問題により、日本と中国でも水産物の貿易摩擦が起きているが、この問題は、国内の水産物を保護し、内需拡大によって対応するべきである、という本誌の立場が、アベノミクス時の経済政策とは異ったもう一方の、利上げ、利上げ局面での貿易収支拡大より内需拡大を優先させることにより、大多数の消費者を救う経済政策の立場だったことを示しているのである。

 しかし、内需拡大は銀行が中心になるので、株より借入が優勢になるため、株価は低下してしまうし、金利が上昇する国は消費国になることになるため、外国の商製品を輸入し消費する消費国であるアメリカの消費者と同じ消費者性向の内在化を必然的に発生することになり、国内で内需を拡大するためには、国内で海外商製品との競争に勝利しなければならず、規制を掛けようとすれば貿易摩擦が頻発する可能性もある。対して、自営業主や未上場企業、持分会社なら借入による資金調達や株価低下の影響も受け難いため、金利上昇は消費者、自営業主や未上場企業や持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)には都合が良い。

 システムの根拠には信用がある。金利上昇時には国家間での対立が激化するため、金利上昇幅に示される国家の信用を維持するために、防衛力や外交力が必要になる。そこで、消費が行われるための根拠には覇権に基づく信用が必要なのであり、また同時に、消費国の国民が消費者の立場に立つことは、消費者志向のマーケティングで、消費者選好の変化を反映した新製品の開発でも有利になるため、消費国は技術革新により更なる経済成長を生じる。逆に供給国は、周縁国から侵害を受け物理的均衡を維持できなければ、消費を行うことはできなくなる。例えば、日本の防衛力拡大は、韓国という供給国を保護し、日韓での経済活動の確実な発達のための根拠となっている。

 国民経済の成長は、金利、国防力、外交力という三つの独立変数の従属変数である。NW=f(i、f、n) =df(i、f、n)/di+df(i、f、n)/df+df(i、f、n)/dn=0*偏微分した数式は、多重指数記法によりテイラー展開可能であるベクトル空間上の複数変数の写像の内積の幾何的平方であり、それぞれ多重積分形に変形したり、測度変換し確率・統計を応用した実解析のシミュレーションも可能。[NW:Natinal Wealth,i:interest,f:force,n:negotiator]

→NW>0では中核国、NW=0では永世中立国、NW<0では周辺国であり、抜け駆けをしない限りはゲーム理論的に国家間での均衡が発生し平和な国際社会になることが証明される。ゲーム理論的な国富とは一国だけでなく二か国以上で均衡条件に従って国家毎に戦略的な一定の資源分布が示されている状態。
→⒈外交等の交渉力により軍事衝突を回避すれば軍事力が減少低下しないので国富が維持される。⒉国際均衡を無視して軍事活動を行えば軍事活動を行うこと自体は周辺国になるのと同然である。

→NW方程式には、確率測度が応用できるので、経済物理学的に考察できるが、NW方程式のゲーム理論的均衡理論において、熱的死とは、国家間での国富の不均衡のことを意味し、グローバル資本主義はゲーム理論的均衡理論において不均衡から均衡状態に至ることが証明される。
→NW=d(f-n)/diのf-nはfとnの多項間漸化式の特性方程式であり、消費国において金利政策により設定される金利に対する金利以外の全ての変数の弾力性を数式で表すと同時に、NW方程式の補題となるNW方程式の簡易な解法であり、予め金利に応じた国富の分布の全ての数値計算結果を算出しその中から望ましい利率を選択するための金利政策を中心にした国富の数理モデルである。
→量的緩和理論はNW方程式の金利の補助定理である。
→過去から未来に渡る全ての歴史現象はNW方程式に帰着する。
→社会心理のパラドックス(下記リンク参照)は不均衡を増大させる。

社会心理のパラドックス

 株価が上昇するのは金利の低い不況期であり、株価低下は平成時代には長期不況と捉えられたが、量的緩和や利下げにより、株価を維持することも必要になるだろう。株価低下局面では利下げが行われ続けたり、株価は上昇するので、借入れる側の企業は安全である。また、景気回復局面で、貿易摩擦により国際経済の中で孤立しないように、産業構造の変化にも対応しなければならない。円安による自由貿易主義一辺倒(円安は国際市場での競争で勝利できる高品質な商製品が必要。)では、景気の良い利上げ局面ではバイアスになってしまい、消費者からの抵抗を引き起こしていたが、バイアスに囚われずに自分自身の理論(知識構造)とは正反対の立場も取り入れて、国際社会での対話を通じて抑止力に依存せずに孤立を回避し、経済情勢の変化に自律的に経済を維持することが今後は求められる。

 他方で、投資家は物価を抑制する見返りに、銀行に有利な利上げを容認してしまうことになってしまった。勿論、日銀による利上げにより銀行株には大幅な上昇幅が見込まれてもいるが、いずれにしても、投資家心理は、銀行と軌を一にして変化する消費者心理とは、厳密には一致していない。

 無論、利上げが投資家に不利だとしても、投資家は債券を購入すればよいはずである。戦前、特に金利上昇が続いた1930年代は、金利上昇につれ内外価格差が拡大し、債券価格も上昇していた。投資家に限っては、債券を発行する銀行と利害は一致しているのであり、投資家に比べて、消費者は、銀行の動向に消費生活を左右されてしまう弱い存在なのであり、投資家や銀行は、厳密には消費者ではないのである。

 利上げはアメリカのような覇権国家には有利であり、日本はその利上げと反比例して上昇する円安により経済を発達させてきている。日韓の間で発行されることが決まったサムライ債のように、日本の非常任理事国加盟などによる国際社会での重要性向上を反映して発行されている債権もあり、そのことが日銀の利上げの説得力のある根拠には成り得る。今後、東アジアで日銀の利上げが成功し、債券の信用が維持され、低金利のジレンマを超克できるかは、日本の東アジアでの指導力にかかっている。

 東アジアでは、新興国の中国が一帯一路政策により国力拡大を続けて来ていたが、米中の貿易摩擦は現在も対外的には大きな圧力として作用し、中国国内では中国市民を孤立させ始めている。また、日中では処理水問題も発生し日中が東アジアでの利害は一致しそうもない。日本経済は、米国との関係を基軸にして発達してきていたのであり、日中関係や中国経済の変化からすれば、中国との関係では孤立あるのみであり、日本は中国よりアメリカと利害を共にする方が優利になるだろう。

 東アジアにおいて、ついに金融の三国鼎立がセットアップされた。昨今の米中の経済の変化からして、日本社会の動向を占う米中関係は緊張緩和に向かってはいる。日本社会の平和は、日米同盟や他のアジア諸国との関係により維持されるものなのであり、経済の変化に合わせて変化する中国と日韓の間のバランスを保つことができるのは、必ずしも物理的強制力により押し切るだけではなく、3ヵ国の間でキャスティングボードとなれるような国家であるはずである。

 国際社会の秩序における決断力の決定要因(意思の実現力)は、場外で作用するフォースの自己目的化による暴走、陽動や誘導尋問ではなく、当然平和を維持するための精神的根拠となる情報のやり取りの中に現れる意見と、対話の主導権に所在するキャスティングボードなのである。(2023.9.12.筆者記。)

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