金利の推移から日本の社会心理を読む

 日本の金融システムには、銀行業と投資業という二つの方向がある。銀行業と投資業には、国によって優利・不利があり、産業構造と国家の強大さに比例して多様であった。


 産業構造には、保護主義と自由貿易があり、どちらで成功しているかは、その国毎の経済の特質により相違している。また、工業国家か農業国家かによって、将来の産業の発達度合いや海外への進出度合いは異なっている。


 日本の場合は、自由貿易主義を取り、農業国家から脱して、貿易輸出を大幅に拡大し、経済成長に成功している。そのためには、第二次世界大戦後の金融制度の変化が大きく影響しているので、国家が経済成長を遂げるためには、経済制度の変化へ有利に適応することに成功する必要であり、現在の日本は財政政策より金融政策を重視する金融国家へ変貌を遂げている。


 国際金融の世界で、日本の銀行の金利設定には、全世界規模のグローバル経済での成長のためではなく、日本の日本以外のアジア国での優位性に基づき信用を拡大するアメリカのような覇権国家と同様の金融戦略が現れることがある(日韓間で設定されたサムライ債=東アジア内でのローカルな覇権国家)。銀行の金利設定には、政府の立場を重視するか、投資家の立場を重視するかの戦略の違いが込められているのである。

 日本は、自国以外のアジア諸国に対しては、内弁慶的態度で、高めの金利で貸出す立場に立っている。しかし、他方では、中国のような新興国との緊張関係では、金利や経済は、競争的状況へ発展するリスクも発生する。

 金利は、彼を知り己を知るために読むものである。金利には、自国の主観だけでなく、他国の情勢も反映されるので、それを独りよがりに解釈するのではなく、ゲーム理論のように、相手の立場に立って非ゼロサムの均衡状態を目指せば百戦して危ういこともなく、アメリカのような軍事力を根拠にした強大な覇権が必要なくなる。


 経済史では、債権国であることは国際社会の中で覇権国家であることを意味してきていた。高金利債権の高い銀行収益による債権国としての地位を守るためには、アメリカのような強大な軍事力という根拠が必要になる。しかし、高金利政策と強大な軍事力の保有は、戦後の平和国家日本では過去80年間で全く銀行の金融戦略の中心になることはなかった。反対解釈に基づけば、金利を低く設定すれば、戦後日本のように長期間に渡って平和な社会を維持できるのであり、そのためには、銀行業よりも証券業の方が重要になる。アメリカも1999年にグラス٠スティーガル法を廃止し、戦後の日本型経済(投資兼業、低金利、平和主義)のように、金融機関の投資٠保険業との兼業を許可するグラム٠リーチ٠ブライリー法を制定している。投資業の再活性化による国民経済の投資規模の拡大は年金ファンド運用規模の拡大を促進し、年金ファンドの証券市場での認知を拡大した。二十世紀までの覇権国家は銀行が発達した債権国家だったが、二十一世紀の覇権国家の経済構造は日本型経済に切り替わっていたのである(逆にアベノミクス期には改憲[軍拡、利上げ*後述]が唱えられ日本型経済は変化したアメリカ経済とは逆行し凋落する危険性もあったのである。)。

(「第99図 戦後の金利の推移と戦前の金利」、内閣府HPより)


 上図の示す通り、1931年から終戦までの日本の国債金利は10%前後で推移し、危機が高まったときには20%で推移していたが、戦後は大幅な金融緩和が行われて、アベノミクス時には金利はマイナスになっていた。金利と社会情勢には関係性があり、高金利は国際情勢の危機感の上昇、低金利は国際情勢の危機感の低下を意味する。アベノミクス時には憲法改正が議論されたが、そのためには、金利は高金利が望ましく、日本の歴史で国際情勢の緊張を反映していた10%台でなければならなかっただろう。

 LM曲線で、金利上昇は物価を低下させる作用があるとされており、インフレ目標達成のために、低金利政策を取る日銀の理論的根拠である。しかし、昨今のインフレ目標達成・賃上げ要求のためのネオナチ的心理を応用した社会心理の操作は、国際情勢の危機感拡大による金利上昇により金利が自動的に物価を抑制し株価の大暴落を引き起こしてしまうため、頓挫してしまう運命にあるのである(期待物価のパラドックス)。また、賃上げのための社会心理の扇動は、日本法では、破壊行為防止法違反(第38-40条違反)にも相当し、適法な軍隊と利害は相反する。賃上げは、ジョンレノンの言うように、軍事協力によるものではない方がよいし、年金ファンドの動向とも矛盾する。ハイパーインフレーションは戦争後に発生するように、実際に物価上昇が発生するのは戦争への誘導によってではないからである。

 期待物価のパラドックスは、流動性の罠を解除してしまい、貯蓄性向は上昇し、貯蓄された消費・投資のためのお金が留保されるが、GDP増加は抑制される1。もしGDP成長率を維持したいのな、流動性の罠の解除により上昇した金利を、量的緩和政策により抑制すれば、従来通りのGDP成長率が維持されることになる。期待物価のパラドックスが発生した場合は、金利上昇分に応じた金利政策の余地を推測し、量的緩和政策を併用し金利を望ましい水準に維持する必要が出てくるのである。

 金利上昇により経済成長が発生するのはローマ帝国やアメリカのような銀行業中心の覇権国家であり、日本のようなサプライサイドの投資業中心の国家では、社会心理の罠により、金利は経済成長を抑制してしまうため、ついに日銀の金利政策は理論的に破綻し、マイナス金利政策は終焉してしまったのである(経済成長は技術革新が発生し続けることを仮定しているため、マイナス金利政策には技術的特異点が発生する危険がある。)。金利に応じて経済成長がどのように発生するかは、それぞれの国家の経済の特質により相違する。

 金利操作は中央銀行のインフレ目標達成のための主要な手段であり、経済分析では第一に重要である。また、金利の推移には、その国の経済の特徴や社会心理が反映されるため、金利は経済の純文学として読むこともできるのである。これまで金利の推移と国際情勢や政治形態、産業構造との関係は詳しく検討されていなかったが、日本の金利の推移には、実際にも、国際情勢の危機の高まりや政治家等の発言とは裏腹の当時の真実の社会心理が現れたりもしており、本稿ではそのことがゲーム理論的に分析され、実証的にも示されている。(2023.9.7.筆者記。)

  1. 2023年に日本のGDPはドイツに追い抜かれたが、日本とドイツのGDPの差額は、金利上昇により流動性の罠が解除され消費・投資のための資金が、銀行に貯蓄されたためであり、予め金利上昇を予想していたのだから、金利上昇分を量的緩和政策により調整することが可能だったのである。なお、金利が上昇するたびに量的緩和を行い低利子率を維持するとしたら、現在の長期金利と平均短期金利との乖離分だけのGDP増加が見込まれることになる。また、銀行に貯蓄された分をそのまま投資すれば投資した分のGDPが増大するが、2023年は金利を上昇させた分だけの資金の留保があり、もし利上げを行なっていなければ資金の留保は発生しなかっただろう。国家経済で毎年確実にGDPを増加させるには、銀行の信用と島国であることの優位性に基づく自由貿易の果たす役割が特に重要なのであり、投資は単に国家に留保された資金を再投資してGDPを増加させるための単純な操作に他ならず、中央銀行は投資理論(*投資には保護主義・農本主義的思考が含まれる。)を準用し、ETF買いや量的緩和の思考を取り入れることにより市中銀行の投資を促進することにより急激な物価上昇のような物価変動の影響を受けずに毎年の経済成長率を実質的に決定し確実に資本深化を進めているのである。以上のことから、2023年には4.7%以上の成長率が仮定され、アメリカ並み以上の実質経済成長率が毎年維持されることになるだろう。なお、2024年1月29日時点でアメリカの金融当局は米国債のランオフを月間600億ドルから300億ドルに減らす可能性がないのではないという量的引き締めの減速を通じた市場資金の吸い上げ量の縮小による利下げ誘導効果と物価上昇効果により経済成長を促進させるという見解を示した。 ↩︎

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